表情を作る
マリは表情がとても豊かでしたが、白い顔に黒い目がはっきりと見えるからでしょう。
時々わざわざ私の目の前にきて目をしょぼしょぼさせてきました。おすわりしながら居眠りして、また目をあけてこちらを見て、また居眠り。
何度も瞬きするのです。犬が瞬きをほとんどしないことに最初驚いたので、今度は何度も瞬きすることに何の意味を持たせているのか分かりませんでした。
結局何が伝えたかったのか最後まで分かりませんでした。
ご飯をあげ忘れた時は、あの~お忙しいところ申し訳ありませんが何かお忘れではないでしょうか?ご飯はまだでしょうか?とでも言うように耳を下げ姿勢をやや低くしてしっぽを遠慮がちにわずかに揺らしながらゆっくりと静かに近づいてきました。顔にはちゃんとそのように言っているかのように見えました。
誤って重複してご飯を上げようとするときはまだ貰っていないふりをして食べていました。
遊んでいて勢い余って噛んでしまった時は、ごめんね、ごめんね、わざとじゃないの、本当にごめんね、と言いながら(本当にそう言っているように見えました)耳としっぽを下げ、下からこちらを覗き込むように見上げながら円を描くようにまわりました。
大丈夫だよ、いいよ、と伝えると、少し離れたところに伏せの状態で待機してしばらく大人しくなりました。
反省と謝罪を伝えているとよく分かりました。
リビングと続いている和室にお昼寝の時は自由に出入りしていましたが、夜寝る時だけは、決まって廊下側から少しだけ顔を覗かせて、今夜もお願いします、お邪魔致します、という感じにしっぽを振りながら入ってくるのがおかしかったです。
明らかに人に気を使って状況に応じて表情を変えていました。
マリが寝ている時にちょっかいを出し、顔を噛まれた時は、痛い!と言ってもフン!!と無視されました。自業自得だろという表情でむっとしていました。
この場合は謝る必要なしと思ったようです。
最も、口の中を切っただけで表面はなんともありませんでした。おそらく母犬が子犬を叱る時には怪我しないようにこのように噛むのだと思います。噛まれた時は顔がどうなったかと思いました。怒って噛んでいながら案外冷静に計算して手加減してるのだなと感心しました。
おやつを前にするとデレデレして現金な性格でした。そんな時は何をしても怒りません。元々なのかしつけが悪かったせいか、とても怒りっぽいタイプでしたが、普段なら怒ることもおやつを前にしてなら怒ったことはありませんでした。
徹夜で作業した時はそばについて一晩中つきあってくれました。
間に合うかな~?とマリに聞くとはげますように微笑んでくれました。
もう先に寝ててもいいんだよ、と声をかけても見守るようにずっと一緒にいてくれました。とても勇気づけられました。この時に間に合ったのはマリのおかげと思っています。
こういう時は犬と暮らす幸せを感じました。普段は自分勝手でしたが、ここぞというときはさすがと思わせる行動が結構ありました。
普段は掃除機に吠えアタックしてくるしつけの悪い犬でしたが、ガラス製品を割ってしまい後始末するため掃除機を出しても決して吠えませんでした。ガラスが散らばった場所へ行こうとはしないで片付けが済むまでその場でまるでフリーズしたようにおとなしく待機してくれます。
動物病院では大人しく診察台で注射も治療も我慢し、終わった後、褒めると誇らしげなどや顔をして喜びました。
犬には飼い主の気持ちや意図を正確に嗅ぎ取る能力があるのかもしれません。
病院へ連れて行こうと思っただけで隠れたりします。
出かけてくるねと嘘をついても決して騙されませんでした。
いつもなら置いて行かれないように必死になりますがそんな時はソファーに寝そべりながら知らん顔されます。
家族が話す内容まで理解しているかのような表情でした。ですからマリの悪口を言うと嫌そうな顔をしました。
家族の生活パターン等を含めてあらゆることを完全に把握しているようでした。
マリがおしゃべりしたらどんなことを話すのかなと当時はいつも思っていました。
亡くなる直前に聞いたマリのメッセージから人間と同じ思考と同じ言葉で話すのだと分かりましたが。
人間の未熟さを大きな心で受け止め共に生きてくれたことをいつも様々な豊かな表情と共に思い出します。