Lady Mari

ウェストハイランドホワイトテリア

挨拶

マリは家族が帰ってくると玄関まで出迎えて耳を下げしっぽを振り振り口を舐めてくるのですが、冬の寒い時期は暖房のきいたリビングでぬくぬくしていたいのか、ソファで寝そべって待っています。

ドアが閉まっている時はドアの前で待っていてくれるのですが、寒い時はソファから動きません。

耳を下げしっぽをふりソファに寝そべったまま、お帰り~と待っています。

ただいま~と声をかけてもソファからおりてきません。

しっぽをぶんぶんふり歓迎してくれていますが、まるで、(近こうよれ)と言っているように見えます。

少し近づいてもやはりソファからしっぽを振ったままです。

(もっと近こうよれ!)

結局、こちらからマリに挨拶しに行きます。

こちらが熱烈にマリに挨拶すると、今度は熱が下がるのか、顔をそむけがちになります。

(さがれ!頭が高い!)

 

自分が自分のペースで挨拶したら満足なマリなのでした。

 

出かける前にマリに挨拶して話しかけると、最初は相手をしてくれますが、(もういい!分かった!)とばかりあきれ顔になります。

熱しやすくて冷めやすいようです。

 

散歩中によその気になる犬に自分から近づいていき、相手が自分に興味を持つと引き気味になりあっさり向きを変えて去っていこうとします。

相手がその気になりしつこくされるのは煩わしいようです。

そんな風に冷たくされる犬が気の毒になります。

 

そういう熱しやすくて冷めやすいところがテリア気質ともいうのでしょう。

 

何かに夢中になっているときに、よその飼い主さんが、かわいいねと声をかけてくれても見向きもしません。その為、気を悪くされる方続出で、最初は戸惑いました。

が、私自身、そのような気質に魅力を感じ、特にそれ自体悪い行為だと思わなくなりました。

 

むしろ、尊敬すら感じました。

 

マリを見ていると、人間とコミニュケーションを取りつつも自分のペースを自分で判断していつもマイペースでした。

 

ここまでは相手をするけれど、十分だと判断するとくるりと向きを変え、自分の態度を貫きます。

 

とても潔く正直でした。

 

 

 

リアファンになったのはそういう部分からです。

 

 

そこに立派な哲学を感じてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

背中で遊ぶ

マリが隣に来て伏せの姿勢になるとついちょっかいを出したくなります。

背中をまっすぐにのばしてくつろいでいると、自然に手が背中に伸びます。

なでられるのは問題ないのですが、おもちゃ扱いは断固拒否します。

 

背中を鍵盤にすると、一音につき、う~っとうなります。

面白いので、ドレミの歌をマリの背中で弾こうと思い、

ううう う ううう、ううう う ううう~とひいていると、

う、う、無音、あれ?

マリの顔を覗き込むと怒った顔をしていました。

その後、何度背中の鍵盤を押しても無言で無視を通します。

バカは相手にしないのが一番と知っているようです。

やめるとため息をつく声が聞こえました。

 

背中におもちゃを乗せてみると、前を向いたまま必ずその瞬間振り落とします。

数回やって、振り落とした後、もう一度やろうとすると、顔だけこちらを向けた斜めの姿勢でこちらを見てじろっとにらんで警戒します。

その後やめるとやはりため息。

幼稚な人に付き合うのも疲れるとばかりにあきれ顔です。

 

しばらくすると、いつものように穏やかな表情に戻りくつろいでいる様子が見られます。

気が強いけれど大人なマリです。

 

 

出来ないふりと「やって」

マリは人間にやってもらった方が楽で便利だということにすぐに気付いたようで、何かと人に頼ってきました。

例えば、ソファに登るとき、抱っこしてあげてもらった方が自力で登るより楽なようで、ソファに上がりたいときは、こちらの方をアイコンタクトしながら、ぴょこぴょこと軽く飛び上がります。まるで、登れない~出来ない~と言っているかの様です。

いつも何か催促する時はこのようなしぐさをしていました。

 

一応登れるはずなので、これは出来ないふりしてやってもらおうとしています。

言いなりになるのもと思い、自分で!、と声をかけると、不服そうなうなり声を軽くあげながら、よいっしょとばかりに力んで登るのですが、苦労して逆上がりをしている様を想像させてなんだかちょっとかわいいのです。

それに、自分で登れるでしょう、と話しかけた意味をちゃんと理解でき、会話が成り立つのがとても楽しいです。

 

足の指に石ころが挟まると、足を軽く上げながら、とってという表情でこちらを見上げます。

 

おもちゃのボールがソファの下に転がって取れなくなると同じように軽くジャンプしながら知らせてきます。

 

この時の表情がちゃんと相手に意図が分かるようにそれぞれの状況に最適な表情をするのが面白いのです。

 

本当に人間にそっくりな表情をする犬でした。

 

いっしょに暮らすうちに学んだものもあるでしょうが、元々犬には相手を観察して相手の表情を読み取る習慣があり、それが人間の社会でも共通のことなので人と暮らすのに自然に生かされるのでしょう。

人間が犬と一緒にいて安心し信頼できるのはこの共通点があるためでしょう。

 

 

 

 

 

表情を作る

マリは表情がとても豊かでしたが、白い顔に黒い目がはっきりと見えるからでしょう。

時々わざわざ私の目の前にきて目をしょぼしょぼさせてきました。おすわりしながら居眠りして、また目をあけてこちらを見て、また居眠り。

何度も瞬きするのです。犬が瞬きをほとんどしないことに最初驚いたので、今度は何度も瞬きすることに何の意味を持たせているのか分かりませんでした。

結局何が伝えたかったのか最後まで分かりませんでした。

 

ご飯をあげ忘れた時は、あの~お忙しいところ申し訳ありませんが何かお忘れではないでしょうか?ご飯はまだでしょうか?とでも言うように耳を下げ姿勢をやや低くしてしっぽを遠慮がちにわずかに揺らしながらゆっくりと静かに近づいてきました。顔にはちゃんとそのように言っているかのように見えました。

誤って重複してご飯を上げようとするときはまだ貰っていないふりをして食べていました。

 

遊んでいて勢い余って噛んでしまった時は、ごめんね、ごめんね、わざとじゃないの、本当にごめんね、と言いながら(本当にそう言っているように見えました)耳としっぽを下げ、下からこちらを覗き込むように見上げながら円を描くようにまわりました。

大丈夫だよ、いいよ、と伝えると、少し離れたところに伏せの状態で待機してしばらく大人しくなりました。

反省と謝罪を伝えているとよく分かりました。

 

リビングと続いている和室にお昼寝の時は自由に出入りしていましたが、夜寝る時だけは、決まって廊下側から少しだけ顔を覗かせて、今夜もお願いします、お邪魔致します、という感じにしっぽを振りながら入ってくるのがおかしかったです。

 

明らかに人に気を使って状況に応じて表情を変えていました。

マリが寝ている時にちょっかいを出し、顔を噛まれた時は、痛い!と言ってもフン!!と無視されました。自業自得だろという表情でむっとしていました。

この場合は謝る必要なしと思ったようです。

最も、口の中を切っただけで表面はなんともありませんでした。おそらく母犬が子犬を叱る時には怪我しないようにこのように噛むのだと思います。噛まれた時は顔がどうなったかと思いました。怒って噛んでいながら案外冷静に計算して手加減してるのだなと感心しました。

 

おやつを前にするとデレデレして現金な性格でした。そんな時は何をしても怒りません。元々なのかしつけが悪かったせいか、とても怒りっぽいタイプでしたが、普段なら怒ることもおやつを前にしてなら怒ったことはありませんでした。

 

 徹夜で作業した時はそばについて一晩中つきあってくれました。

間に合うかな~?とマリに聞くとはげますように微笑んでくれました。

もう先に寝ててもいいんだよ、と声をかけても見守るようにずっと一緒にいてくれました。とても勇気づけられました。この時に間に合ったのはマリのおかげと思っています。

こういう時は犬と暮らす幸せを感じました。普段は自分勝手でしたが、ここぞというときはさすがと思わせる行動が結構ありました。

 

普段は掃除機に吠えアタックしてくるしつけの悪い犬でしたが、ガラス製品を割ってしまい後始末するため掃除機を出しても決して吠えませんでした。ガラスが散らばった場所へ行こうとはしないで片付けが済むまでその場でまるでフリーズしたようにおとなしく待機してくれます。

 

動物病院では大人しく診察台で注射も治療も我慢し、終わった後、褒めると誇らしげなどや顔をして喜びました。

 

犬には飼い主の気持ちや意図を正確に嗅ぎ取る能力があるのかもしれません。

病院へ連れて行こうと思っただけで隠れたりします。

出かけてくるねと嘘をついても決して騙されませんでした。

いつもなら置いて行かれないように必死になりますがそんな時はソファーに寝そべりながら知らん顔されます。

 

 

家族が話す内容まで理解しているかのような表情でした。ですからマリの悪口を言うと嫌そうな顔をしました。

 

家族の生活パターン等を含めてあらゆることを完全に把握しているようでした。

 

マリがおしゃべりしたらどんなことを話すのかなと当時はいつも思っていました。

亡くなる直前に聞いたマリのメッセージから人間と同じ思考と同じ言葉で話すのだと分かりましたが。

 

人間の未熟さを大きな心で受け止め共に生きてくれたことをいつも様々な豊かな表情と共に思い出します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェスティの声

ウェスティは狩猟犬だったので良く吠えます。物音がするとさかんに吠えたてるのですがその声の音量がものすごく大きいのです。

小型犬はキャンキャンと吠えると思っていた私はその声のボリュームにびっくりしました。かなり騒音レベルで、ウォンウオンと地響きのような声を出します。

とにかく不審な音がすると突然吠えるのでこちらは飛び上がるほどびっくりします。

この無駄吠えに関してのしつけは完全に失敗してしまいましたが、根気よく犬と向き合えばしつけることも十分可能だと思います。

 

ウェスティは特徴的な声なので、他の犬(テリア以外)と簡単に聞き分けられました。

ある時、近所でマリそっくりな声が聞こえました。まさかと思うと家の中にマリがいません。

声のする外へ出ると、マリは家から2ブロックくらい離れたところを吠えながらうろついていました。声のおかげで家出を知り、無事保護できたのは幸いでした。

 

マリは何度か家から出て行ってしまったことがありました。

子犬の頃、庭で遊ばせていた時にも出て行ってしまったことがありました。

家の敷地はブロックやフェンスがありますが、犬はわずかな隙間から外に簡単に出て行ってしまいます。

ふわふわの毛のせいで、実際のサイズよりも大きく錯覚してしまうことも要因ですが、人間には敷地の境界を認識できても犬にも同じように認識してしてもらうにはある程度訓練が必要でした。

何度か庭に出して自由にさせて境界付近をうろついたら注意するということを繰り返してやっと覚えてもらいました。

しかし、人間のミスで扉がしっかり閉まっていないと知らない間に出て行ってしまい、いなくなってしまったこともありました。

知人などにも協力してもらいあちこち近所を探し回りましたが見つかりません。

一端、家に戻るとちょうどマリも自分で家に戻ってきたところでした。

どうやら家の場所も覚えてくれていたようでこの時は本当にどうしようかと思いましたが事故にも合わずに無事に戻ってきてくれて奇跡だったと感謝しています。

 

それ以降は勿論、戸締りに気を付け常にマリが家にいるか確認するようになりました。

結構気を付けなくてはいけないことがたくさんあるなと思いましたが今となってはとんだハプニングでした。

 

ウェスティの吠え声のエピソードは他にもあります。

海外旅行に行ったときのことです。

ウィーンの蚤の市をぶらぶらしていたら遠くから聞き覚えのある吠え声がします。

マリの声!と思わず声に出してしまいました。

声のする方へ歩いて行くとやはりいました。ウェスティです。

ウェスティのいるコーナーにはたくさんのウェスティグッズが置いてありました。

しかし、そのウェスティがお客さんに吠えています。飼い主さんが叱っていましたが、納得できないような不服そうな声を出すのがマリにそっくりで笑えました。

その後もそのウェスティはお客さんがそのコーナーに近づくたびに吠えて、飼い主さんに叱られていました。そのたびに不服そうな顔をするのがおかしかったです。

こんなに離れた場所で久しぶりにマリの声が聴けた気がして懐かしく思えました。

商売の邪魔をするであろう相棒を連れてくる飼い主さんとの様子がとても愉快で良い旅の想い出にもなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

皮膚病

まだ子犬の頃、近所を散歩していると、同じ犬種のウェスティを散歩している女性に出会いました。

ウェスティに会うのは初めてでした。立ち止まり少しお話ししました。

皮膚は大丈夫?と聞かれ、私が???という顔をすると、ウェスティは皮膚が弱いくて赤くなることを説明しながらその方の愛犬の足を見せてくれました。確かにすべての足が真っ赤です。通院しているのだそうです。

ウェスティはアトピーのようなアレルギー体質で皮膚の弱い子が多いみたいと教えてくれました。

その方はもうすぐ出産で一時的に離ればなれにならなくてはいけないので心配なことや、他にもウェスティを飼っているお宅が近くにあることなどを教えてくれました。

お話しを聞くとやはり同じ犬種なので、行動パターンに類似性があることを知りました。その方の愛犬もやはりべたべたするのはあまり好きではないけれど、飼い主さんが部屋から離れるとあとをついてまわるのだそうです。

 

その方のお話しを聞いてから、しばらくしてマリは1才になりました。

成犬になってそのことを忘れていた頃、マリも皮膚病になりました。

何歳だったかは正確には忘れてしまいました。

それ以降、ずっと定期的に通院です。

塗り薬や飲み薬が出され、いつも薬づけでした。

ウェスティは皮膚病の他にも体質的に弱いところがあり、良く病院に連れて行きました。

かゆくなるのかよく足をぺろぺろするのでいつも注意していました。

その点は本当に見ていてかわいそうでした。痛くはないと思いますが、気になるようでした。

白い毛の中から覗く肌が真っ赤になっていて痛々しく見えるのでした。

本来なら健康的なピンクの肌が白い毛から見えてコントラストが綺麗で可愛いのです。

犬には体質的にかかりやすい病気があることをこの時知りました。

犬を実際に飼ってみないと分からないことが本当にたくさんありました。

 

この時、面白いと思ったことがあります。

マリは、しつけを誤ったために他の犬にはいつも吠えていたのですが、同じ犬種に会った時だけ大人しくなり決して吠えません。仲良くなるとまではいいませんがとにかく吠えないのです。これは不思議なことでした。

その後何回かウェスティと出会う機会がありましたが、例外なく吠えず友好的な態度をとりました。

仲間意識でもあるのでしょうか?とにかくユニークだと思ったことでした。

 

 

 

 

 

 

 

初めてのお散歩

動物病院でワクチンなどを済ませて、いよいよお散歩だとはりきって出かけた日のことはよく覚えています。

マリも喜び勇んでしっぽをぴんと立てて先頭を足早に歩きます。

 

登りの坂道の石の階段を元気よく勢いよく一気に登っていくのでこちらもリードに引っ張られながら走ってついていきます。

少々こちらはバテ気味ですが、さすが狩猟犬だけあってスタミナがあるなと感心したところ、登りきるとすぐさまくるりとユーターンして今度は大急ぎで来た道を下っていこうとします。

後ろからついていく私達はいったい何事かと思いましたが、マリに遅れて頂上に着いた一瞬、オールドイングリッシュシープッドッグの巨体が見えました。が、すぐにリードに引っ張られるので連れられて同じように走って下るしかありません。

 

後ろを振り返るとそのオールドイングリッシュシープドッグが階段を登りきったところからこちらの方向を呆然と見下ろしています。

自分の姿を一目見るなりお尻を向けて去っていく子犬をどう思ったのかは分かりません。

 

なんてかわいい大型犬、さわってみたいなと思い、下に着いてからマリにもう一度行こうよと声をかけたのですが、もう帰り道の方向しか見ていません。

頑として向きを変えようとはしませんでした。

下に降りた後も、まだ安全ではないとでもいうようにひたすらそこから遠ざかろうとしています。

 

恐らく、マリがいたペットショップには大型犬はいないようでしたので、初めて見る大型犬に驚いたのでしょう。

目のないお化けだと思ったのかも知れません。

 

大慌てで必死の形相で焦って一目散にびゅーんと逃げるマリの姿が可愛らしく思ったのですが、小生意気でやんちゃなくせに怖がりで弱虫なんだなとも思った出来事でした。